インタラクティブ小説
☆水戸緑門漫遊記
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1
一行は、まもなく峠にさしかかろうとしている。
御老公は、なにげなく振り向いて、そろそろだな、と、口の中でつぶやいた。
2
「助さん、疲れはせぬか?」
「は?」
「いや、その、だんご・・・」
軽くお茶目をしてみたかった、ただそれだけだが、いかんせん馴れないこと、
御老公の舌は、持ち主の意に反して、聞きなれていたあの一言を再現する事が出来なかった。
「わしは、もう、疲れてしまった・・・」
これは、違うんじゃないか?ひょっとして、まずいんじゃないのか?
御老公は、パニックに陥って、助けを求めるように、同行者達を見回した。
助さんは、蒼白になって、口をパクパクさせている。
不器用な格さんはなおさら動揺してしまい、卒倒寸前の体である。
「と、とにかく、あの茶屋でひとまず休みましょう、」
「やりぃ、団子、団子!」
フォローをいれたのはお銀で、後のはハチである。
3
「御隠居ぉ、もう、一歩も歩けねえや」
どっかり、八兵衛は座り込んだ。
ほっほっ、と御老公は振り向いて、固まった。
座りこんでいたのは、八兵衛ではなく、格さん!やられた!
助さんも、呆然と口を開けている。
「と、とにかく、あの茶屋でひとまず休みましょう、」
「やりぃ、団子、団子!」
フォローをいれたのはお銀で、後のはハチである。
八兵衛は、がっかりした。
峠の茶屋には、悪代官の苛政によって、団子などはもちろん、食べるものは何ひとつ、
置いてありはしなかったのだ。
「ゆるせませんな」
御老公の機嫌も、最悪である。早速、悪の調査を始めようとして、
ヤシチを呼び出し、調査を命じた御老公一行は、城下町の宿に入る。
部屋に入り、とりあえず落ちついた、その時!
「八兵衛、悪をすっかり調べあげてきなさい!」
「わかりやした!」
八兵衛を一足先に城下町に行かせ、しばらく後に一行も町に入る。
今夜の宿を探す一行は、ある騒ぎを目撃した。
「どざえもんだゼ!」
走る町人の後をおいかけて行くと、
「ハチビョウエ!」
ぷっかりと、川に浮かんでいたのは、八兵衛であった。
かろうじて蘇生した八兵衛であったが、何があったのか、
その記憶はぽっかり抜け落ちていた。
御老公は、周りの制止を押しきり、みずから城下町へと駆けた。
いたたまれなくなっていたあの場の雰囲気から逃げ出すかのように。
天が呼ぶ、地が呼ぶ、悪が呼ぶ。御老公は五感を開放して悪を捜し求めた。
大黒屋。
御老公の足は、自然にその前で動きを止めた。そして、
「大黒屋と、悪代官が結託して、悪事をはたらいている模様です。」
ヤシチの報告は、いつになく要点をついていた。
「ヤシチは失敗した!」
お銀は叫んだ。
「手厚く、葬ってやらねばの。」
「弱りましたね、ご隠居。」
「今度の悪は、なにやら様子が違う。」
もはや、新たな犠牲者をだしてはならない。しかし、悪を見過ごす訳には、さらにいかない。
「居ませんよ、トビザルなんて。」
「えっ?」
「どうかなさったんですか、ご隠居。」
御老公は、風のように店の奥へ滑り込んだ。
おりしも、主と何物かの密談中であった。これは都合がいい。
御老公は、音もなく屋根裏へと跳びあがった。そして聞き耳をたてる。
「そちも、悪よのう。」
おお、見よ、その時の御老公の嬉しそうな表情を!
これまで、老公みずからその言を聞く事はなかったのだ!革命的事態といえよう。
嬉しさのあまり、物音をたてて、しかるべき続きを聞きたくなったとしても、
誰も御老公を責めることなど出来はしまい。
「くせものっ!」
「な、なんですとっ!」
ブスリ。
「てごたえはあった。ものども、屋根裏をしらべよ。」
御老公はからくも虎口を逃れたが、このために、隻眼になってしまった。
以後、読者にはそのつもりで読まれたい。
助さんは言った。
「お銀なら、今、風呂ですよ。」
御老公は激怒した。
「風呂桶ごと、大黒屋へ、ぶちこめッ!」
「な、なぜ、大黒屋ですか?」
「黙れ助次郎、格さん、やれ!」
「今度の悪は、なにやら様子が違う。」
もはや、新たな犠牲者をだしてはならない。しかし、悪を見過ごす訳には、さらにいかない。
「御老公さま、これを、」
「なんだね、お銀。 あの生首じゃないか。」
「ヤシチの、ダイイング・メッセージです。こんなところに。」
「さすが、忍びじゃのう。なに、「大黒屋と悪代官」か。」
「早速、潜入してみます。」
「御老公さま、これを、」
「なんだね、お銀。 八兵衛のてぬぐいじゃないか。」
「悪からの脅迫文です。こんなところに。」
「そんな、ばかな。 なになに、「これ以上手出しはするな。 大黒屋と悪代官」か。」
「早速、潜入してみます。」
「こうなってはしかたない、助さん、格さん。」
「いや、お言葉ですがご隠居、こういうときこそ役割、というか、序列は大事にしませんと。」
「そう、足もとを見られかねませんぞ。」
「な・・・なに?」
御老公は絶句した。
「こうなってはしかたない、助さん、格さん。」
「いや、お言葉ですがご隠居、こういうときこそ役割、というか、序列は大事にしませんと。」
「そう、足もとを見られかねませんぞ。」
「な・・・なに?」
御老公は絶句した。
「は・・・ヤシチ・・・は?」
「ここにゾンビ・パウダーがある。」
「は・・・はぁ。」
「さて、大黒屋の風呂にはいってまいりましたところ、」
「うむ、もう帰ってきたか、お銀。」
「まさしく悪党の湯加減でございました。」
「さすが、プロじゃのう。」
「これで証拠が出揃ったわけですね、ご隠居!」
「悪の現場はおさえましたぞ!」
「何物だ、じじぃ!うぬぬ、ものども、であえぃ!」
「助さん、格さん、こらしめてやりなさい!」
「ご隠居、まだ、8時12分です!」
「悪の現場はおさえましたぞ!」
「何物だ、じじぃ!うぬぬ、ものども、であえぃ!」
「助さん、格さん、こらしめてやりなさい!」
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「しずまれぃ!」
「しずまれしずまれ、こちらにおわすお方をどなたと心得る、おそれ多くも先の副ショーグン、
水戸光圀公にあらせられるぞ!」
「み・・・みずのへの御老公さま!・・・は、ははぁ・・・・!」
印籠に輝く六ボウ星!
「ミズのヘのヘはヘブライのヘにて、かのキリストの末裔にあらせられる!一同の者、頭がたかい!ひかえおろう!」
「う・・・嘘だ、こんなのは夢だ・・」
助さんがふともらしたその言葉は、喧騒の中で不思議にはっきり聞こえた。
御老公はちらと格さんを見る。格さんも似合わない、力のない笑みをうかべている。
「我らがここを守ります、御老公はその隙に」
「う、うむ」
「腹を召されませ。」
「へっ?」
「いさぎよく切腹なされませ。」
「な、なにをいう格之退!わしゃ、・・・・」
「御老公さま、あれは!ハチです、びっくりどっきり八兵衛です!」
「まことか助次郎!おお、八兵衛ばっかりじゃ!」
「ああ、あれはうっちゃり八兵衛!すごいぞ!」
「しっかり八兵衛だ!しっかりしてる!」
突然の援軍により、にわかに形勢は逆転した!手をとりあって喜ぶ御老公たち!
そのとき、背後から忍び寄る悪の手先!一閃!
ギャッと叫んで倒れたのは・・・悪の手先!その後ろに血刀をさげているのは、八兵衛!
「おお、よくやった、ちゃっかり八兵衛!今日からお前がメインの八兵衛じゃ!」
ちゃっかりしてるなあ、と、格さん。
○ しかし、八兵衛らのみではやはり、いかんともしがたかった。
気がつけば、あんなに沢山いた八兵衛たちは、片手で数えられる程になってしまっている。
「ぐわっ!が、がハッ!」
「ああ、助さん!助さぁ−ン!」
御老公は焦点の合わない目で朱に染まった助さんをみおろした。
「す・・・・格さん、もう・・・このへんで・・・いいじゃろう」
「何を仰せられますかッ!まだ、まだまだですッ!」
そして、四度、形勢は大きく動こうとしていた。
格さんの中の殺戮マシーンは、ついに覚醒した。荒れ狂う赤い旋風。
その向かう先には、何一つもとの形をとどめ得るものはなかった。
「しずまれぃ!しずまれしずまれ!ここにおわすおかたをどなたと心得る!
畏れおおくも先の・・・・ああ印籠!助さぁ−ン!」
「ばかものめ、ものども、斬れぇーぃ!」
「ぎゃーぁー
かくて、一件は落着した。
犠牲もあったりなかったり、事件も本当にあったのか。
澄んだ瞳でよくよく見れば、心の中は日本晴れ。
緑門さま一行は、晴れやかに次の町をめざすのだった。
完
屋敷の庭に、朝日がさしこんできた。
動く影はたったふたつ、御老公と格さん。
数えきれない手傷を負い、虫の息の格さん。うつろな目で、よたよたと踊っている御老公。
○ 血の海のただ中で、彼らは何を思うのか。しかし、いつの日か彼らは再び歩き始めるだろう。