☆読書録 3 『ヒカルの碁』そのに


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 ジャンプの漫画である。

平凡な小学生、進藤ヒカルの前にある日現れた、神の一手を追い求める幽霊、佐為。

一方、同じく神の一手を極めようとする、塔矢名人。

しかし名人は、悪の幽霊にとり憑かれ、悪魔の一手で囲碁界を暗黒に染める。

そこに現れるヒカルと佐為、神の一手がビームを放ち、名人をつらぬく!

 「碁パワー1000・・・2000・・・・・8000!!バカな!」

そして現れる悪魔囲碁四天王。「ヤツは我々の中じゃ一番下っ端だったんだぜ」

 「碁パワー95万ぽっちか!見よ、1000万パワー!」

今、地球と人類の存亡をかけた、碁格闘大会がはじまる!宇宙の一手で勝負だ!

 

 

という展開にはならずに、第一部終了、そして第二部開始。

悪のホスト碁戦士、コヨンハ登場!

和谷(富樫)、越智(虎丸)は驚きそして互いに解説し、なすすべなく敗れる!

アキラ(ピッコロ)の奮戦も、倍倍のパワーゲームに、もはや風前の灯!

そんな時、ヒカル(クリリン)が叫ぶ!「悟空ゥーーー!!!」

「またせたな!」「佐為!!」

「オメェ、強そうだな!オラ、ワクワクしてきたぞ!」

 

 

 

という展開にもならずに、第二部もめでたく終了。

 

と、思ったら、「ご愛読ありがとうございました。」

本当にこれで終了か?そうか終わったのかー。

暴れるコは多いだろうな、この展開で終了というのは。

「台湾の強い子」に期待した台湾人のコも国際的に暴れるだろう。

私も本気で残念ではある。

 この一戦には勝って、ヒカルが台風の目の一角にでもならないと、

話が終わる方向に進まない、と思っていたら。

負けちゃったけども、進ませないまま終わるから大丈夫、か。

 

 第一部終了当時、「おそらく次の回の扉のスミで、桑原本因坊が

「ヒカルの語はアトもうちょっとだけ続くぞ」とか言うに違いない」

とか言っており、また「それでもなかなか終わらせてもらえないに違いない」

とか思っていて、実際、そう期待してもいたのだが、第二部は単行本5か6冊分、

本当に、もうちょっとだけ、の分量で終わってしまったとは。

 ジャンプは変わったか?

 

しかし、ある意味でひとつの伝説に立ち会えた気がする。

 

 こんなに、大事な場面で主人公が負けてばかりの漫画は無かった。たぶん。

特にヒカルがプロになってから、

 倉田との一色碁

 アキラとの、実質上作品のクライマックスとなる戦い

 第二部で森下師匠との一話丸々カラーページという壮挙の下での戦い

 北斗杯直前のアキラとの戦い

 北斗杯第一戦

 北斗杯第二戦

これら、フシメ節目で全部負ける斬新なストーリー展開は、とぼけたような原作者の、

恐るべき内面をあらわしているのかもしれない。

 

 負けても負けても次があるということは、負けたらそれまで、ということよりもハードである。

日本人は負けて死んだ人にはやさしいが、負けて生きる人には残酷だ、みたいなことを誰かが言っていたが、

考えてみると、「敗者を見つめる目」はそもそもの最初から、しばしばクローズアップされていた。

 2巻の”加賀の過去の話”が、まずその始めだろう。

院生で通用しなかった海王の大将。

プロ試験の昼休み、選手同士の話でも、

”プロ試験は5度目で初めて予選を通った、ずっとフリーターの名の無い人”

”「本選ともなれば会社を辞めざるを得な」かった、そして負けた椿さん”

など、小学生の読者には冷笑の対象にしかならなさそうな、ヘビーな人々が多数登場していた。

あきらめた飯島くん、無理っぽい奈瀬さん。

第二部でも、越智に馬鹿にされた山田さんは、三年以上前に15歳以下でプロ入りした筈である。

株にも初段にも負けた御器曽プロ、どうするのか真柴プロ、本田プロ。

メインキャラの和谷くんも、経過がでる試合のことごとくを落としている、大胆な咬ませ犬といえる。

 普通、主人公をその中に入れるかどうかは知らず、最終回直前のエピソードをひとつ。

塔矢行洋が息子アキラを解説して、モチベーションの高さがアキラを勝たせる、様なことをいったすぐ後、

最高のテンションで挑んだヒカルは、負けてしまう。

本気か?

本気だろう。

 『スラムダンク』は、山王戦で負けさす予定が、編集部によって勝つことになってしまったと聞いた。

読者がそれを望めばこその挿話でもある。

『ヒカルの碁』は、日本の子供、どころか大人、それどころか数カ国に囲碁を再発見させた、

ジャンプにとっても、それ以上に作者にとっても大切な作品であったはずだ。

それがこんな夢の無い話になるとは、原作者以外の誰が思うだろう。

 

 ヒカルは、そのうちコヨンハにも勝つだろう。アキラにも数勝数敗の、生涯のライバルであるだろう。

この稿を書いているのが、第二部終了した4月28日なので、残った読みきりで語られるかもしれないが、

ヒカル45歳どころか20歳が語られることもあるまい。

しかし、後々はそうであるに違いない。

ただし、予感は予感として、負けっぱなしは事実である。

 

敗者のバイブル。

昔『人間失格』、いま『ヒカルの碁』。

ポジティブも現代の世相であろう。

 


*最後の番外編まで見終わって思ったこと。

かなり昔のマンガで、島本和彦の『ワンダービット』のマンガ内マンガとして描かれた、

「ゴールにシュート」をふと思い出しました。うろ覚えだけど。

  サッカーの大会の決勝戦、主人公は最後の力を振り絞ってシュートを放つ。

  ライバルたちが固唾を呑んで見守り、病室の謎の男は静かに過去を振り返る。

  主人公のシュートを、敵キーパーはありえない動きで阻もうとする。

  そのシュートは、キーパーの腕を弾き飛ばす!キーパーは、サイボーグだった!

「描きたいトコだけ!読みたいトコだけ!! どう!?」

「ああっ、続きが気になるぅ!」(暴れる) 「・・・失敗か!」

 

 という話。

描きたいトコだけ!て言われても、困る。

  


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